【はじめてのIFRS 18】何が変わる? 利益の「見せ方」を分かりやすくする新基準

IFRS初学者向け

決算資料を見ていると、「営業利益」「調整後営業利益」「コア利益」など、いろいろな利益が出てくる。

同じような名前でも、会社によって計算方法が違ったら、どう比較すればよいのか。

この問題に対応するために登場したのが、IFRS 18「財務諸表における表示及び開示」だ。

まず押さえたいのは、企業の利益をどう表示し、その中身をどう説明するかを改善する基準だということ。この記事では、細かな例外に入る前に、変更の全体像を整理する。

IFRS 18とは?

IFRSは、企業が財務諸表を作成するための国際的な会計基準。その一つであるIFRS 18は、これまでの IAS 1「財務諸表の表示」

に代わる基準だ。

正式な英語名は、Presentation and Disclosure in Financial Statements。

  • Presentation:表示——財務諸表に、何をどのように示すか。
  • Disclosure:開示——注記などで、どのような説明を加えるか。

IAS 1の内容をすべてゼロから作り直したわけではなく、従来の要求事項も引き継いでいる。そのうえで、特に大きく見直されたのが、損益計算書の表示と業績指標の説明だ。IFRS財団:IFRS 18の概要

いつから適用される?

2027年1月1日以後に開始する年度から適用される。早期適用も認められている。

ここで大切なのは、「2027年に発表する決算から」ではなく、年度の開始日で判断すること。

決算期早期適用しない場合の適用開始年度
12月決算2027年1月1日〜2027年12月31日
3月決算2027年4月1日〜2028年3月31日

対象はIFRS会計基準を適用する企業。日本基準だけで財務諸表を作成している企業に、そのまま一律に適用されるという意味ではない。IFRS財団:適用時期

大きな変更は3つ

最初は、この3つを押さえればよい。

変更点ざっくり言うと
① 損益計算書の区分と小計を整える営業利益などを、共通のルールで比較しやすくする。
② 会社独自の利益指標を説明する「調整後利益」が、何をどう調整した数字なのかを分かるようにする。
③ 情報のまとめ方・分け方を改善する大切な情報が「その他」などに埋もれないようにする。

IFRS 18の中心は、この3点によって、企業の業績を読み取りやすくすることだ。IFRS財団:新基準の公表

① 営業利益の計算に、共通の土台ができる

これまでも、多くのIFRS適用企業が営業利益を表示していた。ただ、IAS 1では営業利益の計算方法が定義されておらず、企業間で違いがあった。

IFRS 18では、損益計算書の収益・費用を、次の5区分に分類する。

区分初学者向けのイメージ
Operating:営業売上や売上原価など。他の4区分に分類されない収益・費用も含む。
Investing:投資事業活動とは独立してリターンを生む投資などに関する収益・費用。
Financing:財務借入などの資金調達に関する収益・費用。
Income taxes:法人所得税IAS 12に基づく法人所得税の費用・収益など。
Discontinued operations:非継続事業IFRS 5の要件を満たす、非継続事業に関する損益。

さらに、Operating profit(営業利益)と、原則として Profit before financing and income taxes(財務及び法人所得税前利益)という小計を表示する。

以下は、一般的な事業会社を想定した簡単な例だ。単位は任意で、銀行などに関する特別な扱いは省いている。

項目金額区分
売上高1,000営業
売上原価・販売費など−800営業
営業利益200営業区分の小計
保有する投資からの配当収益+20投資
財務及び法人所得税前利益220営業+投資の小計
借入金の支払利息−30財務
法人所得税費用−50法人所得税
当期利益140非継続事業はないものとする

「利益140」という結果だけでなく、どのような要因を積み上げて140になったのかを読み取りやすくする仕組みだ。IFRS財団:Project Summary・5〜8ページ

「営業=毎年発生する本業の損益だけ」ではない

ここは注意したい。

IFRS 18の営業区分は、他の4区分に分類されない収益・費用も含む。一時的な費用だから、自動的に営業利益から外れるわけではない。

また、銀行のように融資自体が主要な事業である場合などは、分類の扱いが変わる。上の表を、すべての業種にそのまま当てはめることはできない。IFRS財団:Project Summary・6〜8ページ

② 「調整後利益」の中身が見えるようになる

例えば、ある会社が次のように説明しているとする。

「営業利益は100。ただし、事業再編費用30を除けば、調整後営業利益は130だ」

投資家としては、「通常の業績を理解するために役立つ数字かもしれない」と思う一方で、なぜその費用だけを除くのかも知りたい。

ここで登場するのが、MPM:Management-defined Performance Measures(経営者が定義した業績指標)だ。

大まかには、会社が決算説明資料などで使用し、会社全体の業績に関する経営者の見方を伝える、一定の独自の収益・費用の小計を指す。

「調整後営業利益」などは、その定義を満たせばMPMになる。一方、顧客数や店舗数などの非財務指標まで、すべてMPMになるわけではない。IFRS財団:MPMの定義

MPMについては、注記で、計算方法や有用性、IFRSで定める利益指標などとのつながりを説明する。

先ほどの例なら、数字の橋渡しはこうなる。

調整内容金額
IFRSに基づく営業利益100
除外した事業再編費用を加算+30
調整後営業利益130

これは仕組みを理解するための簡略例だ。実際の開示では、調整項目の税効果や非支配持分への影響なども必要になる。IFRS財団:MPM解説資料

独自の利益指標を禁止するのではなく、「その数字が何を表しているか、読者が確認できるようにする」という方向だ。

③ 「その他」にまとめすぎない

財務諸表に「その他の費用200」と書かれていても、それだけでは何が起きたのか分からない。

例えば、日常的な少額の費用と、重要な訴訟関連費用が一緒に入っていたら、読者は大切な出来事を見落としてしまうかもしれない。

IFRS 18では、項目の共通点や違いに応じて、まとめること(Aggregation)と、分けること(Disaggregation)を考える。

何でも細かく並べればよいわけでもない。財務諸表本体では全体像を示し、注記では必要な内訳や説明を補う。重要な情報を隠さず、読み手が理解できる粒度にすることが目的だ。IFRS財団:変更の影響分析

IFRS 18で、利益そのものが変わるのか?

IFRS 18は、基本的に収益・費用をいつ認識し、いくらで測定するかを変える基準ではない。そのため、IFRS 18自体によって最終的な当期利益の金額が変わるわけではない。

ただし、項目の分類が変われば、営業利益などの途中の小計は、従来と変わる可能性がある。

最終利益が同じでも、その内訳の見え方は変わる。 ここを区別しておきたい。IFRS財団:Project Summary・4ページ

適用する年だけ見ればよいわけではない

IFRS 18は遡及適用され、前年の比較情報も新しいルールに合わせて修正する。

例えば、12月決算の会社が2027年度から適用する場合、比較として載せる2026年度の数字も、新しい表示に組み替える必要がある。IFRS財団:適用・移行の説明

そのため企業側では、勘定科目の分類、システムから取り出す情報、決算説明資料で使う利益指標などを、事前に確認しておく必要がある。

初めてIFRS 18を読む段階では、「利益の並べ方をそろえる」「独自の利益指標を説明する」「情報を適切に分ける」という3つを押さえたい。そこから実際の損益計算書を見ると、細かなルールも理解しやすくなる。

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