「創業者が何でも決めている」「CEOが会長も兼任している」「経営陣が自分たちの報酬を決めている」。
こんな会社が出てきたら、Corporate governance(企業統治)を考えよう。
まず、「何が分かれているか」を確認する
次の3つは似ているが、別の話だ。
| 論点 | 分かれているもの | 試験で考えたいこと |
|---|---|---|
| Ownership and control/所有と経営の分離 | 株主と、経営を任された経営者 | 経営者が株主より自分の利益を優先していないか。 |
| Chair and CEO/会長とCEOの分離 | 取締役会を率いる役割と、日常の経営を率いる役割 | CEOの判断を十分に検討・監督できるか。 |
| Two-tier board/二層型取締役会 | 監督機関と、業務を執行する機関 | 監督の独立性を確保できるか。情報共有や調整に問題がないか。 |
「役割が分かれているから、必ず意思決定が遅い」とは限らない。どの承認や調整に時間がかかっているのか、問題文から判断する。
Agency problemは「任せた人」と「任された人」の利益のずれ
会社では、株主がPrincipal(依頼人)、経営者がAgent(代理人)という関係になる。
株主は会社の長期的な価値を高めてほしい。しかし経営者は、自分の報酬や地位を優先するかもしれない。これがAgency problemだ。ACCA公式解説
例えば、次のような状況が考えられる。
- 当期利益に連動するボーナスを増やすため、必要な研修や修繕を削る。
- 会社を大きくして自分の地位を高めるため、採算の悪い買収を進める。
- 自分の評価が下がることを恐れ、不都合な情報を取締役会に伝えない。
答案では、単に「Agency problemがある」で終わらせず、誰の利益がどう食い違うかを書く。
Directors may prioritise their own bonuses over the company’s long-term interests.
取締役が会社の長期的な利益より、自分たちのボーナスを優先する可能性がある。
オーナー経営と、外部の経営者。それぞれ何を見る?
| 状況 | メリットとして考えられること | 注意したいこと |
|---|---|---|
| オーナー自身が経営する | 所有者と経営者の利害が一致しやすい。権限が集中していれば、素早く判断できる。 | 反対意見が出にくい。創業者への依存や後継者不足が問題になる。 |
| 株主が外部の経営者に任せる | 専門知識や経験を持つ人材に経営を任せられる。 | 株主との利益のずれや情報格差が生じ、監督が必要になる。 |
オーナーと経営者が同じなら、その人自身の「株主としての利益」と「経営者としての利益」のずれは小さくなる。
ただし、他にも株主がいる場合は別だ。例えば、支配株主である創業者が、自分の別会社に有利な条件で取引を行えば、少数株主の利益が損なわれる。
「オーナー経営だから、ガバナンスの問題はない」とは書かないようにしよう。
会長とCEOの兼任は、スピードと権力集中を考える
Chair(会長)は取締役会を率い、CEOは日常の経営を率いる。両者を分けることは、経営陣に対する検討・監督を機能させるうえで重要だ。ACCA:取締役会と各役割の解説
| 体制 | 考えられるメリット | 考えられる問題 |
|---|---|---|
| 会長とCEOが別人 | 権力集中を抑え、CEOの提案や業績を客観的に検討しやすい。 | 両者の役割が曖昧だと、対立や調整の遅れが生じる。 |
| 会長とCEOを兼任 | 方針を統一しやすく、両者間の調整を省ける場合がある。 | CEOが取締役会の議論も支配し、自分の判断へのチェックが弱くなる。 |
答案に使いやすいのは、次の一文だ。
Combining the roles may speed up decisions, but it could weaken independent challenge of the CEO.
兼任によって意思決定が速くなる可能性がある一方、CEOに対する独立した立場からの検討が弱まるおそれがある。
ここでは、Segregation of dutiesよりも、Separation of roles(役割の分離)やChecks and balances(相互牽制)という表現が使いやすい。
Segregation of dutiesは、例えば支払の承認・実行・記録を別の担当者に分ける、といった内部統制でよく使う表現だ。
対策は、問題点に合わせて選ぶ
「NEDsを増やす」だけで終わらず、何を改善させるかまで書こう。
| 問題文の状況 | 提案したい対策 |
|---|---|
| CEOの提案が議論されず、そのまま承認される | 会長とCEOの役割を分け、独立性と経験のあるNEDs(非業務執行取締役)による検討を強める。 |
| 経営陣が自分の報酬を決めている | 独立したNEDsを中心とする報酬委員会で、報酬を検討する。 |
| 短期利益だけでボーナスが決まる | 長期的な成果や、事業に適した非財務指標も評価に組み込む。 |
| 取締役会に不都合な情報が届かない | 適時で正確な報告、内部監査からの独立した報告経路などを整える。 |
どんな設問で使う?
以下が設問例だ。
Evaluate the weaknesses in the company’s governance arrangements and recommend improvements.
会社のガバナンス体制の弱点を評価し、改善策を提案せよ。
Assess the implications of the CEO also acting as chair of the board.
CEOが取締役会の会長も兼任することの影響を評価せよ。
試験では、「誰が決めるか」「誰が監督するか」「誰の利益が優先されるか」の3つを確認する。そこから、問題文の事実 → 生じるリスク → 具体的な改善策、の順番で答案を組み立てよう。
用語リスト
最後に用語リストを載せておく。
| 英語 | 日本語・意味 | 覚えておきたい違い・注意点 |
|---|---|---|
| Principal / Agent | 依頼人/代理人 | 株主と経営者の関係では、株主がPrincipal、経営者がAgent。「経営者が主役だからPrincipal」と逆に覚えない。 |
| Agency problem | 依頼人と代理人の利益のずれ | 経営者が株主の利益より、自分の報酬や地位を優先するなどの問題。単なる意見の違いではない。 |
| Separation of ownership and control | 所有と経営の分離 | 株主が所有し、経営者が経営を担うこと。会長とCEOの役割分担とは別の話。 |
| Chair / CEO | 取締役会の議長・会長/最高経営責任者 | Chairは取締役会を率い、CEOは日常の経営を率いる。Chairを、単に「CEOより偉い人」と捉えない。 |
| Executive director / Non-executive director(NED) | 業務執行取締役/非業務執行取締役 | NEDは日常の業務執行を担わず、戦略の検討や経営陣の監督に関わる。NEDであることと、独立性があることは同じではない。 |
| Accountability | 説明責任 | 任された仕事を行うResponsibilityに対し、その判断や結果について説明し、責任を問われること。 |
| Conflict of interest | 利益相反 | 個人的な利益などが、会社に対する職務上の判断と衝突する状況。例えば、取締役が自分の別会社との取引を決める場合。 |
| Independent challenge | 独立した立場からの問い直し・検討 | Challengeは、ここでは「挑戦」ではない。経営陣の提案をうのみにせず、前提や根拠を確かめること。 |
| Separation of roles / Segregation of duties | 役割の分離/職務分掌 | 会長とCEOの分離には前者が使いやすい。後者は、支払の承認・実行・記録を別の担当者に分けるなど、内部統制でよく使う。 |

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