【IFRS S1・S2解説第1回】IFRSは環境情報も扱う? S1から理解する新しい企業開示

IFRS解説

IFRSと聞くと、売上や利益、資産・負債といった会計のルールを思い浮かべる人が多いと思う。

そのIFRSの枠組みに、環境や人材など、サステナビリティに関する情報の開示基準も加わっている。それが、IFRS S1とS2だ。

サステナビリティ投資、オルタナティブ投資、CSR投資といった様々な要素を組み込んだ投資をしようとする投資家が増えてきた。彼らに対応するため、また自社の取り組みをアピールするため、財務諸表に加えて、会社が将来どんなリスクに直面し、それにどう対応するかも、共通のルールで伝えようという動きだ。IFRS Foundation:S1・S2の概要

英国・欧州で進む、サステナビリティ開示

環境や気候に関する開示制度を整えてきた英国・欧州では、この流れが先に進んでいる。

英国政府は2026年2月、IFRS S1・S2を基にした「UK SRS S1・S2」を公表し、企業が自主的に使えるようにした。こうした制度づくりを見ると、環境情報を企業の報告に組み込もうとする英国の姿勢を感じる。英国政府:UK Sustainability Reporting Standards

ただし、IFRSは英国に本拠地を構えるが、IFRS S1・S2自体は英国だけの基準ではない。IFRS財団の下にあるISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が策定した、国際的な開示基準だ。

会計基準を作るIASBと、サステナビリティ開示基準を作るISSB。名前は似ているが、担当する分野が違う。

投資家も、財務諸表の数字の先を知りたい

なぜ、こうした情報が求められるのか。

例えば、今は利益が出ている会社でも、主要工場が水不足で止まるかもしれない。環境規制への対応に、大きな設備投資が必要になるかもしれない。

反対に、省エネ製品の需要が増え、新しい収益源が生まれる会社もある。

投資家が知りたいのは、こうした変化が、将来の売上や費用、キャッシュフローにどう影響するかだ。

そのため、法令による義務化を待たず、企業に自主的な開示/Voluntary disclosureを求める動きもある。IFRS財団も、投資家の情報ニーズに応えるため、自主適用を進める企業向けのガイドを公表している。IFRS Foundation:自主適用について

「自主的」という言葉がついていても、投資家への説明という点では、企業にとって重要な課題になっている。

IFRSを使う会社にも、関心を持っておきたいテーマ

IFRS会計基準を使っているからといって、S1・S2の適用が自動的に義務づけられるわけではない。適用対象や開始時期は、各国・地域の制度などによって異なる。

また、S1・S2は、IFRS会計基準を使っていない会社でも利用できる。IFRS Foundation:よくある質問

それでも、IFRSで財務情報を報告している企業にとって、関連するサステナビリティ情報をどう説明するかは、関心を持っておきたいテーマだ。

「今年はいくら利益が出たか」に加えて、「その利益を将来も生み出せるか」「そのために、どんな対応や投資が必要か」。

このつながりを理解するために、まずは開示全体の土台となるIFRS S1から見ていこう。

IFRS S1とS2は、何が違う?

正式名称は少し長いが、役割を分けると理解しやすい。

基準名称役割
IFRS S1サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項開示全体に共通するルール
IFRS S2気候関連開示気候について、具体的に何を開示するか

S1が共通の土台で、S2は気候について詳しく定める基準、と考えるとよい。

S1は気候以外も対象とする。例えば、人材、労働環境、水資源、サプライチェーンなども、会社の将来に影響するなら検討する。

S2を使う場合も、重要性の判断などにはS1のルールを使う。IFRS Foundation:S1・S2の概要

誰のための情報なのか

主な読み手は、投資家、融資をする銀行、その他の債権者だ。

その判断に役立つよう、短期・中期・長期にわたって、次のものに影響しうるリスクと機会を説明する。

  • キャッシュフロー/Cash flows
  • 資金調達のしやすさ/Access to finance
  • 資本コスト/Cost of capital

例えば、重要な原材料の仕入先で労働問題が発覚した場合を考える。

取引を止めれば原材料が不足する。取引を続ければ顧客からの信頼を失うかもしれない。代替先に切り替えれば、調達コストが上がる可能性もある。

労働問題が、売上や費用、事業継続にどうつながるか。そこまで説明するのが、S1の考え方だ。IFRS Foundation:IFRS S1

すべてを載せるのではなく、重要な情報を伝える

ここで出てくるのが、重要性/Materialityだ。

情報を省略したり、誤って示したり、分かりにくくしたりすることで、投資家などの判断に影響すると合理的に見込まれるかを考える。

「サステナビリティに関係する活動を、全部並べる」ということではない。

例えば、飲料メーカーなら、主要工場での水不足は生産量に直結する。一方、同じ水の問題でも、事業内容や拠点によって重要性は変わる。

また、今期の損失が小さいから重要でない、とも限らない。将来の主要製品の販売を難しくする規制なら、現時点の費用が少なくても重要な情報になりうる。IFRS Foundation:重要性の考え方

会社が社会や環境に与える影響も、それが会社自身の将来にどうつながるかを考える。例えば、地域の水を大量に使うことで、操業への反対や取水制限につながる可能性がある。

開示の柱は4つ

S1では、次の4つに沿って情報を整理する。

柱読み手が知りたいこと水不足に直面する飲料メーカーの例
Governance:ガバナンス誰が監督し、責任を負うか取締役会が水不足のリスクを定期的に確認する
Strategy:戦略事業にどう影響し、どう対応するか水の再利用設備や、生産拠点の分散を検討する
Risk management:リスク管理どう見つけ、評価し、管理するか拠点ごとの水不足リスクを評価し、優先順位をつける
Metrics and targets:指標と目標何を測り、どこまで進んでいるか取水量や再利用率を測定し、目標との差を確認する

誰が管理し、どんな対応をして、その成果をどう測っているか。4つをつなげて読むと、会社の取り組みを把握しやすくなる。IFRS Foundation:IFRS S1の開示内容

自社の中だけを見ればよいわけではない

対象となるリスクや機会は、仕入先や顧客を含むバリューチェーン/Value chainにも広がる。

自社工場には問題がなくても、主要な仕入先が操業できなくなれば、自社の生産も止まるかもしれない。

ただし、仕入先を財務諸表の連結対象に加えるという意味ではない。報告する企業の範囲と、その企業に影響するリスクを調べる範囲は、分けて考える必要がある。

開示は、関連する財務諸表と同じ報告企業・同じ報告期間を対象とし、原則として同時に公表する。財務諸表とのつながりも重要だ。IFRS Foundation:共通する開示要件

例えば、環境対応で工場を早期閉鎖する予定なのに、会計上の見積りでは長期間使い続ける前提になっていたら、整合性を確認したくなる。

業種ごとの論点は、SASBも参考にする

何が重要かは、業種によって違う。

食品会社、銀行、ソフトウェア会社では、見るべきリスクも指標も同じではない。

S1の適用では、SASBスタンダードの開示トピックや指標を参照し、自社に適用できるかを検討する必要がある。ただし、掲載された項目をすべて機械的に採用するという意味ではない。IFRS Foundation:S1におけるSASBの使用

いつから適用される?

S1とS2の基準上の発効日は、2024年1月1日以後に開始する事業年度だ。

ただし、これで世界中の会社に一斉に義務が生じたわけではない。どの会社がいつから適用するかは、各国・地域の制度などによって決まる。IFRS Foundation:よくある質問

初年度には、気候関連の情報から開示を始められる措置なども設けられている。その場合も、気候情報を作成するために必要なS1のルールは使う。IFRS Foundation:初度適用時の措置

企業の開示を読むときは、「どんな取り組みをしているか」に加えて、「それが会社の将来のお金にどう関係するか」を探してみると、S1の目的が見えてくる。

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